写真は、3年前の4月にイギリス北部のアイオナ島の海辺岩場に咲いていた花。

 4月下旬に初めて行ったアイオナ島は、春といっても時折雪やあられが北風と一緒に強く吹きつける、大西洋に面した海岸をぐるりと歩いて巡れる人口約200人弱、全長5キロメートルほどの細長く小さな島。1週間滞在した間に、外を歩くときに必要なウールの手袋と帽子を買って自分の体温を保つことにした。小さな手作りショップに入ってそこでつくっている手袋の中から薄い緑色の指がないものを手に入れた。手の甲を包むようなシンプルな手袋だ。帽子はお土産屋さんにあったボンボンが二つ付いたもので、ちょっと自分にはかわいらしすぎるかなと思いながら、帰ったらボンボンをとって使おうと心の中で呟いていた。
 風が強い日は体を飛ばされないように歩いた。ヤギも牛も生き物はみなしっかりと大地にあった。天気は風とともに変化し、空と大地が一体となり、そこにあるすべてのいのちは、空と大地の中に一緒にあった。一瞬一瞬をともにしていた。ここでは自然といのちがあるがままにあった。

アイオナ島の海辺は、白い砂と色とりどりの石が場所によってそれぞれの表情をつくっている。毎日のように時間を見つけて海岸を歩いた。そのときに見つけたのがこの写真の花。
名前をまだ知らない。
この岩場はほかの場所とは少し違うゴツゴツした岩の連なりがある。そこに、一所だけ、鮮やかな緑のなかに濃いピンクのかわいい花たちが咲いていた。

はじめは目を疑った。何かの見間違いかな。
近づいてよく見ると、それはやはり花だった。
なんてかわいい。

ゴツゴツ岩の鈍色のなかに
鮮やかな緑色
その中に小さな濃いピンクの花蕾
花は光をたずさえてやわらかいピンクをひろげる

どうして
どうしてここに

周りには茶色の草がある
春の日差しの力を得て精一杯に姿を現したのか
ほかの場所には見当たらない
只そこにだけ

いのちは只そのとき
そこで精一杯の姿を現していた

只そのときを
そのいのちのままに