ロバート・マックロスキー文/絵 石井桃子訳  岩波書店

「サリーのこけももつみ」

 秋になるとこの絵本を読みたくなります。
 山の生き物たちが冬に備えて秋の実りを蓄えるとき、人も冬を過ごすために薪を集めたり冬の間に食べるものを蓄えます。あるひ、こけももをジャムにするために、おかあさんとサリーは、こけももやまに出かけます。

 マックロスキーの絵は単色で描かれていますが、細部が丁寧に描かれていて見ていて空気の動きや匂いまで伝わってくるようです。絵本の扉裏に描かれたサリーとおかあさんの住んでいる家の中でストーブにのせられた鍋から湯気がたっていて、サリーとおかあさんがジャムをつくっています。おもわず、「ああ、こんなふうにしてジャムをつくるのか。」とみていると甘い香りがしてくるような感じがして幸せになります。

扉から物語は始まっています。

サリーは、こけももやまで、ブリキのちいさいバケツにつんだこけももを入れていきます。
ポリン・ポルン・ポロン!

この音が聞こえてくるのです。絵本のストーリーを通して、音が聞こえてきます。

バケツにこけももが入る音
食べる音
歩く音
など

音に耳を澄まして聴いていきながら
いまどんなことがおこっているかをイメージすることができるのです。

読みながらどんな音が聞こえてくるでしょうか。音を感じることができる絵本です。

おかあさんと、サリー
おかあさんぐまと、こぐま
こけももやまのこちらがわとむこうがわで冬に備えてこけももをとっています。

カラスやしゃこの親子もこけももやまにいました。

 このあと、サリーのおかあさんとおかあさんぐまは、ある出来事に出会って、大人の分別をもった慎重な行動をとります。
 現実は、決してこのように展開はしないでしょうが、知恵と示唆が伝わってきます。
生活をつくるということ、人間ばかりではなく他の生き物たちと自然の恵みを共有しながら、同じように冬に向かって今できる備えをしているそれぞれのいのちの営みを感じルことができます。サリーとおかあさんは、帰りの車にジャムにするこけももを積んで家に向かいます。
 最後の裏表紙の内側にサリーとおかあさんがジャムをつくっている絵を再び見ることができます。ここでまた、じっくりと絵を見て楽しむことができるのです。
 おしまいにまた、ジャムをつくっている部屋に風が入って気持ちよい空気と甘い匂いを感じることができる絵本です。

 マックロスキーの絵は、近くで見ると描き込まれた細部をみて楽しむことができます。また、読んでもらっているときには少し広く全体を見ることができ、そうすると距離感や遠近感などの空間を捉えることができます。読み聞かせをしてもらったとき、読んでもらえたときにこの絵本の力を改めて感じることができます。ぜひ読んであげてください。そして一緒に、楽しんでください。